下記のCT画像は、自転車の運転者が軽自動車の出合い頭衝突で左側頭部を骨折、その衝撃により、打撲部位の直下の脳組織が挫滅を来したものです。
これも、局在性の脳挫傷となります。

局在性の脳挫傷

上の頭蓋骨は、CTの3D画像で骨折線が確認できます。

no008

白く見えるのが脳挫傷です。

左下顎骨々折(ひだりかがくこつこっせつ)
左頬骨々折(ひだりきょうこつこっせつ)
左側頭葉脳挫傷(ひだりそくとうようのうざしょう)

脳挫傷とは、外傷による局所の脳組織の挫滅、衝撃により組織が砕けてしまう損傷のことです。
下記のCT画像では、中央部右側に白い○印、脳挫傷が確認できます。
バイクを運転し、出勤途上の27歳男性が、左狭路から右折で飛び出した自動車と出合い頭衝突、左顔面部を強打し、左下顎骨骨折、左頬骨骨折となり、左下からの突き上げる衝撃で、左側頭葉に局在性の脳挫傷を来したものです。
左側頭葉に局在性の脳挫傷

左側頭葉に局在性の脳挫傷

ONISのソフトを使用して、脳挫傷部に矢印を入れました。

1)頭部外傷後の意識障害、もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が存在すること、

①当初の意識障害、半昏睡~昏睡で、開眼・応答しない状態、JCSが3~2桁、GCS、12点以下が少なくとも6時間以上続いていることが確認できる症例、

②健忘あるいは軽度意識障害、JCSが1桁、GCSが13~14点が、少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例、

意識障害 JCS
Ⅰ覚醒している
(1桁の点数で表現)

0 意識清明
1(Ⅰ-1)見当識は保たれているが意識清明ではない
2(Ⅰ-2)見当識障害がある
3(Ⅰ-3)自分の名前・生年月日が言えない

Ⅱ刺激に応じて一時的に覚醒する
(2桁の点数で表現)

10(Ⅱ-1)普通の呼びかけで開眼
20(Ⅱ-2)大声で呼びかける、強く揺するなどで開眼
30(Ⅱ-3)痛刺激を加えつつ、呼びかけを続けると辛うじて開眼

Ⅲ刺激しても覚醒しない
(3桁の点数で表現)

100(Ⅲ-1)痛みに対し払いのけるなどの動作をする
200(Ⅲ-2)痛刺激で手足を動かす、顔をしかめたりする
300(Ⅲ-3)痛刺激に対して全く反応しない

この他、R(不穏)I(糞便失禁)A(自発性喪失)などの付加情報をつけてJCS200-Iなどと表す。

乳幼児意識レベルレベルの点数評価 JCS
Ⅰ刺激しないでも覚醒している
(1桁の点数で表現)
1あやすと笑う。ただし不十分で声を出して笑わない
2あやしても笑わないが視線は合う
3母親と視線が合わない
Ⅱ刺激すると覚醒する
(2桁の点数で表現)
10飲み物を見せると飲もうとする。
あるいは乳首を見せればほしがって吸う
20呼びかけると開眼して目を向ける
30呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する
Ⅲ刺激しても覚醒しない
(3桁の点数で表現)
100痛刺激に対し、払いのけるような動作をする
200痛刺激で少し手足を動かす、顔をしかめたりする
300痛刺激に対して全く反応しない
GCS
E○+V○+E○=合計○点と表現
正常は15点満点、深昏睡は3点、点数は小さいほど重症
開眼機能E
(Eye opening)
4自発的に、または普通の呼びかけで開眼
3強く呼びかけると開眼
2痛刺激で開眼
1痛刺激でも開眼しない
言語機能V
(Verbal response)
5見当識が保たれている
4会話は成立するが見当識派が混乱
3発語は見られるが会話は成立しない
2意味のない発声
1発語みられず
運動機能M
(Motor response)
6命令に従って四肢を動かす
5痛刺激に対して手で払いのける
4指への痛刺激に対して四肢を引っ込める
3痛刺激に対して緩徐な屈曲運動
2痛刺激に対して緩徐な伸展運動
1運動みられず
PTA、外傷性健忘について
重傷度 PTAの持続
わずかな脳振盪 0~15分
軽度の脳振盪 1.5~1時間
中程度の脳振盪 1~24時間
重度の脳振盪 1~7日間
非常に重度な脳振盪 7日間以上

JCSは3桁が重度な意識障害で、GCSは点数が低いほど重度な意識障害と憶えてください。

高次脳機能障害における後遺障害のキモ?

1)入口部分の3つの要件の中では、意識障害所見が最も重要となります。
つまり、意識障害のレベルが認定等級に直結しているのです。

脳神経外科医は、MRIでびまん性軸索損傷の所見が得られなくても、意識障害のレベルで、それらの傷病の存在を推定し、診断しています。

半昏睡~昏睡状態が6時間以上継続していれば、立証上は、なんの問題もありませんが、5、7、9級では、外傷後健忘や軽度の意識障害であり、担当医が、入院中の被害者をつぶさに検証して、その詳細を把握することは、現実問題として困難です。
なぜなら、治療上の必要がないからです。

実態に反して、3、4日で意識清明とされれば、この後、なんと具体的に症状を立証しても高次脳機能障害は入口段階で否定されることになります。

2)交通事故110番の対応?
家族に対しては、受傷から6時間、1週間の意識障害の経過を詳細に確認し、それを申述書として文書化し、主治医には、申述書を提示して意識障害の記載を依頼しています。

すでに、間違った所見の記載がなされているときは、申述書を示して、訂正をお願いしています。
この場合の訂正とは、新たな所見の記載を意味しています。
経験則ですが、入院期間中であれば、修正は比較的容易です。
主治医の理解を得るには、外傷性健忘のエピソードを具体的に説明することです。
それでも、チーム110のスタッフは、この立証に大変苦労しています。

3)想定される4つのパターン

  意識障害 傷病名 画像所見 高次脳機能障害
1
2 ×
3 ×
4 × × × ×

1であれば、高次脳機能障害の立証に、苦労はありません。
2でも、なんとか頑張って立証に漕ぎ着けます。
3となれば、高次脳機能障害の認定は極めて困難となります。
4は論外で、高次脳機能障害として審査されることはなく、非該当です。
軽度脳損傷、MTBIは4に該当し、高次脳機能障害として評価されていません。

頭部外傷 高次脳機能障害認定の3要件は、
1)頭部外傷後の意識障害、もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が存在すること、
2)頭部外傷を示す以下の傷病名が診断されていること、
3)上記の傷病名が、画像で確認できること、

頭部外傷の傷病名
脳挫傷 急性硬膜外血腫
びまん性軸索損傷 急性硬膜下血腫
びまん性脳損傷 外傷性くも膜下出血
外傷性脳室出血 低酸素脳症

3要件の1つ、意識障害の存在は、最も重要なポイントですが、前回に詳細を説明しています。
ここでは、残りの2つの要件、傷病名ごとの特徴や、得られる画像所見を説明していきます。

愛する家族が、ある日突然、交通事故、頭部外傷で救急搬送され、ICUに収容されました。
命に関わる重傷であり、誰もが、我を失い、狼狽えます。
しかし、それを繰り返すばかりでは、なんの前進もありません。
1日も早く、冷静さを取り戻し、正しい解決に踏み込んでいかなければなりません。

高次脳機能障害の重症例であっても、1年を経過すれば、症状固定の時期を迎えます。
つまり、後遺障害を立証して損害賠償請求を行う、重大な局面に突入していくのです。

では、なにから着手すべきなのか?
それは、診断書に記載されている傷病名について、正しく理解をすることです。

高次脳機能障害に特有の、記憶喪失、記憶回路の損傷、遂行機能の障害、失語、聴覚、嗅覚の脱失、言語理解や認知の低下などの異常行動は、全て、傷病名を出発点としているからです。

傷病名を理解することは、被害者を正しく理解することにつながります。
頭部外傷を代表する11の傷病名について、画像を明示して説明します。

頭部冠状断イラスト

冠状断のイラスト

意識障害を伴う頭部外傷では、高次脳機能障害、重度の後遺障害が遺残することが予想されます。
ここでは、頭部、脳の構造や役割について常識的な理解を深めます。

(1)頭蓋骨
頭蓋骨は、脳を保護する脳頭蓋と、顔面を形成する顔面頭蓋から構成されています。
脳頭蓋は、さらに頭蓋冠と頭蓋底に分かれます。
頭部は、脳が頭蓋骨という固い容器に収納されている構造となっています。
頭蓋骨よりも外側を頭蓋外と言い、頭部軟部組織がおおっています。
頭蓋骨よりも内側を頭蓋内と言い、脳が髄膜に包まれた状態で存在します。
脳に対して影響を及ぼす頭蓋内の損傷の有無が、頭部外傷では問題となります。

(2)髄膜
頭蓋骨の下には、脳を包んでいる髄膜という膜があります。
髄膜は外側から順に、硬膜、クモ膜、軟膜の3層構造となっています。
髄膜
①硬膜  
硬膜は、頭蓋骨の内面に張りついているラバー状の丈夫でシッカリした膜です。
硬膜は、大脳鎌と呼ばれる左右の大脳の間にくびれ込んでいます。
また、大脳と小脳の間には小脳テントを形成しています。

②クモ膜  
クモ膜は、硬膜と軟膜の間にある透明な膜、薄く弱い膜で、ピンセットでつまむと破れます。
軟膜との間には、クモ膜下腔という繊維性のネットがあり、脳脊髄液で満たされています。
このスペースに出血が起こるとクモ膜下出血になります。

③軟膜
軟膜は、脳実質に張りついている透明な膜です。
脳の表面そのものですから、はがすことはできません。
くも膜よりも内側を、無色透明の脳脊髄液が満たしています。

④脳脊髄液
脳と脊髄は脳脊髄液という液体の中に浮かんでおり、くも膜の内側を無色透明の脳脊髄液が満たしています。脳脊髄液は、外からの衝撃を吸収する、脳と脊髄の新陳代謝を調節するなどの役割を果たしています。
脳脊髄液
(3)脳
脳
脳は、大脳、中脳、小脳、脳幹の4つの部分で構成されています。
中脳は、間脳とも呼ばれています。

大脳は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉に分けられ、それぞれ異なる機能を有しています。
大脳の機能

部位 役割
前頭葉 行動の開始、問題解決、判断、行動の抑制、計画、自己の客観化、情緒、注意・組織化、言語表出、
側頭葉 記憶、聴覚、嗅覚、言語理解、
頭頂葉 触覚、空間認知、視覚認知
後頭葉 視覚
脳幹 呼吸、心拍、意識・覚醒、睡眠
小脳 バランス、運動調節、姿勢

脳の構造

胸部の外傷で紹介する傷病名の中で、もっとも軽傷なもので、後遺障害を残すこともありません。
肩の力を抜いて、学習してください。
過換気症候群
ヒトが生きるには新鮮な酸素が必要であり、呼吸によって吸い込んだ酸素は全身を巡り、細胞の中で消費されて二酸化炭素となり、肺から呼吸によって吐き出されています。
つまり、呼吸とは、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すことなのです。

さて、過呼吸とは、呼吸が速く、浅くなることですが、この発作を目の当たりにすると、間断なく息を吐き続けるのですが、息を吸うことを忘れてしまい、白目をむいて倒れるような印象です。
つまり、ヒトが無意識に行う、自然な呼吸のパターンが崩壊している状態なのです。

これまでの交通事故無料相談会で、複数回を経験しており、最初は、驚愕、狼狽えました。
その後、過換気症候群を知ってからは、慣れっことなり、紙袋を手渡し、この袋の中で反復呼吸をするように指示をして対処しています。
であれば、2、3分で元通りとなり、落ち着きを取り戻しています。

過換気症候群とは、精神的な不安を原因として過呼吸になり、その結果、息苦しさ、胸部の圧迫感や痛み、動悸、目眩、手足や唇の痺れ、頭がボーッとする、死の恐怖感などを訴え、稀には失神することもある症候群のことです。
当然ですが、放置しておいても、この症状で死に至ることはありません。

几帳面で神経質な人、心配症であり、考え込んでしまう人、10~20代の若者に多いとの報告がなされていますが、私が経験しているのは、全て30~40代の女性で、交通事故受傷後に、非器質性精神障害である不安神経症やパニック障害の診断がなされている被害者に限定されています。

医学的な考察を行うと、過換気症候群では、呼気からの二酸化炭素の排出が必要量を超え動脈血の二酸化炭素濃度が減少して血液がアルカリ性に傾き、そのことによって、息苦しさを感じるとされています。血液がアルカリ性に傾くことを、医学では、呼吸性アルカローシスと言います。

そのため、無意識に延髄が反射し、呼吸を停止させ、血液中の二酸化炭素を増加させようとするのですが、大脳皮質は、呼吸ができなくなるのを異常と捉え、さらに呼吸を続けるように命じます。
この繰り返しで、血管が収縮し、軽度では手足の痺れ症状、重度であれば筋肉が硬直します。
それらが悪循環を続けると、発作がひどくなってくるのです。

先に、対処方法としてペーパーバッグ法を説明していますが、現在は、誤った処置とされています。

呼吸の速さと深さを自分で意識的に調整すれば、2~3分で、症状は自然に治まります。
万一発作が起きたとき、周囲の人は、なにもせず、安心しなさいと、被害者を落ち着かせた上で、

①息を吐くことを、患者に意識させ、ゆっくりと深呼吸をさせる、
②吸うことと、吐く比率が、1:2を目指して呼吸をさせる、
③一呼吸に、およそ10秒で、少しずつ息を吐かせる、
④胸や背中をゆっくり押して、呼吸をゆっくりするように促す、
上記の呼吸管理で、二酸化炭素を増やしつつ、酸素を取り込んでいくことが勧められています。

過換気症候群における後遺障害のキモ?

1)過呼吸は、非器質性精神障害が治癒すれば消失することから、障害の対象ではありません。

2)非器質性精神障害については、精神科、心療内科に通院して治療を続けることになります。
過呼吸を緩和する治療や、薬はありませんが、非器質性精神障害の治療が進むと、過呼吸は自然消滅しています。
これまでに、症状固定段階で、過呼吸発作が問題とされたことは1例もありません。

3)非器質性精神障害では、交通事故との因果関係を巡って厳しい審査が行われており、丁寧に立証したとしても14級9号がやっとの状況です。

仙腸関節機能不全
傷病名が頚・腰部捻挫であるのに、歩行もままならない被害者が、おおよそ3年周期で登場します。
大半の主治医はプシコ扱いで、真面目な対応をしてくれません。

※プシコ?
医師仲間の隠語で、psycho consult=精神科医に相談すべき患者を意味しています。
正しく発音すれば、教養豊かな患者は、「俺をキチガイ扱いするのか!」 と激怒します。
それゆえ、プシコと呼んでいるのです。

元国立大阪南病院 整形外科の博田医師は、歩行に支障をきたす激しい腰部痛について、仙腸関節の機能不全を原因とするものと説明しておられ、AKAの独自の理論を学会で発表されています。

脊柱骨の最後の部分は仙骨と尾骨で構成されており逆三角形で骨盤骨に収まっています。
この部分を仙腸関節と呼ぶのですが、この納まり具合がおかしいと歩行に支障を来すような痛みが腰部に発生するとのお考えです。

症状は、歩行障害を伴う、腰部の激痛です。
現在、博田先生は南海高野線 千代田駅前で開業をしておられます。
理学療法を中心に、主に骨盤骨の矯正が治療の中心ですが、歩けなかった被害者が、1回の治療で電車に乗って帰った? そんな被害者を現実に経験していますが、症状は、なぜか、再び繰り返すのを特徴としています。つまり、治癒することはないのです。

このAKA理論は、画像所見を確保できないところに最大のウイークポイントがあります。
画像で説明できないので、残念ながら整形外科学会では認知に至っていません。
このAKA理論は、リハビリ科の理学療法士に信奉者が多いことを特徴としています。
爺さん会は、画像で器質的損傷を立証できないところから、後遺障害として認定していません。

保険屋さんの対応は、むち打ちに同じで、受傷後3、4カ月で治療費も休業損害も打ち切ってくるのが普通、うるさく言うと弁護士から受任通知書が送達され、債務不存在確認請求訴訟へと発展していくのを常としています。

AKA理論の提唱者である博田医師の診断を別にすれば、考えられる精密検査のすべてを実施しても、決め手が現れない被害者に対して、困り果てた医師がこの診断名をつける傾向です。
私ごときが、評価する立場にありませんし、またできません。

仙腸関節機能不全、AKAにおける後遺障害のキモ?

1)腰部に激痛を訴え、歩行もままならない被害者に対して、3DCT、MRIは、矢状断、水平断、冠状断、つまり3面からの撮影を行い、仙腸関節部の器質的損傷を立証しようとしましたが、残念ながら、画像所見を得ることはできなかったのです。

2)画像で器質的損傷を立証できなければ、AKAとして後遺障害の獲得はありません。
したがって、立証と後遺障害の申請から撤退しています。

今は、AKAの傷病名で後遺障害を申請するのではなく、腰椎捻挫としての立証に努力しています。

CRPSに続く難治性の疼痛疾患に線維筋痛症があります。
恒常的、慢性的、持続的な全身の激しい疼痛を主たる症状として、全身の重度の疲労や種々の症状を伴う難治性の深刻な疾患ですが、関節リウマチのような関節の炎症はありません。

血液、尿検査で炎症反応が得られず、脳波、心電図検査を行っても異常所見はなく、XP、CT、MRI画像の撮影でも、明らかな器質的損傷を確認することができません。現在でも、医師が押さえると痛みを感じる=圧痛点が複数の箇所に確認できることで、この傷病名が確定診断されています。

CRPSは、交通事故などの外傷をきっかけとして発症しています。
線維筋痛症では、外傷後に発症する比率は、50%以下と報告されているのですが、50%以下であっても、線維筋痛症の発症のきっかけとして外傷や手術などが指摘されており、外傷後に生じた線維筋痛症の内、約60%は交通事故が原因であるという報告もなされています。
具体的には、下肢の骨折から線維筋痛症の発症率は1.7%であるのに対して、頚部捻挫から線維筋痛症の発症率は21.6%とのデータが明らかにされています。

線維筋痛症の原因については、ウイルス感染説、不眠説、食物アレルギー説、化学物質過敏説、内分泌異常説、自律神経異常説、下行性疼痛抑制系の機能不全説など多くの説がありますが、いずれも、科学的、医学的に明らかにされておらず、原因不明の状態が続いています。

日本では、およそ200万人の患者数と推計されており、男女比では、中年女性が圧倒的です。
2012年6月22日、リリカが、線維筋痛症の薬として保険適応の承認を得ています。

1)2010年の米国リウマチ学会 線維筋痛症の診断基準

リウマチの疼痛範囲
WPI=過去1週間の19カ所の疼痛範囲の数(1項目1点)
□右肩 □左肩 □右上腕 □左上腕 □右前腕 □左前腕 □右臀部 □左臀部 □右大腿
□左大腿 □右下肢 □左下肢 □右顎 □左顎
□胸部 □腹部 □首 □上背 □下背

SS症候=痛みの部位を評価する広範囲疼痛指標
疲労、起床時不快感、認知症状、3つの症状について、過去1週間の重症度レベルを0~3の中から1つ、つけます。
□疲労 0 1 2 3
□起床時の不快感 0 1 2 3
□認知症状 0 1 2 3

SS=一般的な身体症候
□筋肉痛 □過敏性腸症候群 □疲れ/疲労感 □思考または記憶障害 □筋力低下 □頭痛
□腹痛/腹部痙攣 □しびれ/刺痛 □めまい □睡眠障害 □うつ □便秘 □上腹部痛 □吐気
□神経質 □胸痛 □視力障害 □発熱 □下痢 □ドライマウス □かゆみ □喘鳴 
□レイノー症状 □蕁麻疹 □耳鳴り □嘔吐 □胸やけ □口腔内潰瘍 □味覚障害 □痙攣
□ドライアイ □息切れ □食欲不振 □発疹 □光線過敏 □難聴 □あざができやすい □抜け毛
□頻尿 □膀胱痙攣 □排尿痛

0 問題なし、
1 軽い、もしくはほとんどない、または症状があったりなかったりする、
2 中くらい、日常に支障がある、ほとんど常に感じる、
3 強い、持続的、日常生活にかなり支障になる、

3カ月以上、身体全体の痛みが続き、他疾患とは考えにくいこと、
WPIが7以上+SS症候が5以上、または、WPIが3~6+SS症候が9以上のものを、線維筋痛症と認定すると定義されています。

2)厚生労働省研究班による線維筋痛症の重症度

ステージ1 11カ所以上の圧痛点で痛みがあるが、日常生活で重大な影響はない
ステージ2 手足の指などに痛みが拡がり、不眠、うつ状態が続き、日常生活が困難になる、
ステージ3 爪や髪への刺激、温度・湿度変化でも激しい痛みがあり、自力での生活が困難、
ステージ4 ほとんど寝たきり、自分の体重による痛みで、長時間、同一姿勢がとれない
ステージ5 全身に激しい痛み、直腸障害や口の渇き、目の乾燥などで日常生活が不可能

3)専門医の検索

名称 桑名東医療センター 膠原病・リウマチ内科
所在地 〒511-0061 桑名市寿町3丁目11番地
TEL 0594-22-1211
医師 松本 美富士 顧問
月・水・木 完全予約制につき紹介状が必要

名称 福山リハビリテーション病院
所在地 〒720-0031 広島県福山市三吉町4丁目1-15
TEL 084-922-0800
医師 戸田 克広 先生
火・木の8:30~12:30 事前予約が必要

日本線維筋痛症学会 診療ネットワーク
http://jcfi.jp/network/network_map/index.html

4)裁判の判例について

①H18-10-13山口地方裁判所 岩国支部判決 最高裁ウェブサイト

線維筋痛症と交通事故との因果関係を肯定した最初の判決ですが、寄与率を25%、4684万円の請求に対して528万円の支払いを命じたもので、因果関係を認めたとは言え、腰が引けています。

②H20-8-26神戸地裁判決、自保ジャーナル1794号

頚椎捻挫から線維筋痛症を発症したという原告の主張に対し、頚部に加わった外力と線維筋痛症の直接の因果関係が不明である以上、本件事故と線維筋痛症との間に因果関係を認めることができないとして、原告の訴えを退けています。

③H22-12-2京都地裁判決、自保ジャーナル1844号

原告の線維筋痛症の発症に、本件事故によって負った骨盤骨折等の重傷による肉体的精神的ストレスが作用している蓋然性が優にあると認められるとして、後遺障害等級7級を認定、線維筋痛症と交通事故との因果関係を認めています。

④H24-2-28横浜地裁判決、自保ジャーナル1872号

3級の線維筋痛症であるとする原告の主張を退け、7級の慢性広範痛症であると認定しています。
繊維筋痛症を診断した主治医が、圧痛点の触診すら行っていない?
線維筋痛症を一蹴した理由であり、あまりにもお粗末です。

⑤H27-1-21東京高裁判決、自保ジャーナル1941号

④の控訴審です。
本件事故と線維筋痛症の因果関係を否定し、後遺障害を14級9号と認定しています。

線維筋痛症について、方向性が示されたとは言えませんが、説得力のある否定例が目立ちます。
繊維筋痛症では、自賠責保険は、本件事故との因果関係が不明であるとして非該当にしています。
訴訟では、医学的な論争を繰り広げることになり、極めて難しい闘いが予想されます。

線維筋痛症における後遺障害のキモ?

1)交通事故との因果関係について?

交通事故により、捻挫、打撲の傷病を負っても、CRPSや線維筋痛症を発症するのは、ごく僅かです。
CRPSや線維筋痛症になりやすい要因を有する人に外傷が加わって発症したと推測されるのですが、その要因は、現在のところ、解明されていません。
さらに、CRPSや線維筋痛症になりやすい要因があったとしても、本件外傷がなければ、発症しなかったとも推測されるのです。
H27-1-21東京高裁判決では、因果関係の立証と判定について、以下を判示しています。

「訴訟における因果関係の立証は、経験則に照らして全ての証拠を総合検討し、特定の事実が、特定の結果発生を招いた関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することである。
その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」

上記を前提とすれば、線維筋痛症の発生原因は未だ特定されておらず、疼痛の発症要因に限っても、外傷などの外的要因だけでなく、種々の事情による心因性の要因が含まれるとされています。
本件の線維筋痛症の原因も、また未だ特定できていないのです。

そして、本件事故による衝撃の程度が比較的軽度なものと推測されており、本件事故が線維筋痛症による疼痛の発症要因の中で、強いものであったとは考え難いのです。

線維筋痛症による疼痛発症の要因には、本件事故以外にも、種々のものが考えられます。
訴訟上の因果関係の立証としては、本件事故が線維筋痛症を発症させたとの関係を是認しうる高度の蓋然性を認めることは困難です。

最後に、後遺障害の程度は、上記症状を裏付ける他覚的所見が認められておらず、14級9号、局部に神経症状を残すものに該当するにとどまると結ばれています。

本件の訴訟では、繊維筋痛症を診断した主治医が、圧痛点の触診すら行っていないとして、線維筋痛症の傷病名が一蹴されており、あまりにもお粗末です。
にもかかわらず、3級3号の線維筋痛症であるとして、1億円を超える損害賠償請求がなされており、乱暴、かつ、荒っぽい争いでした。
判決では、これらを割り引いて検証する必要がありますが、本件事故により線維筋痛症を発症したことについて高度な蓋然性を立証が必要となると、考え込んでしまいます。

2)CRPSやPTSDでは、どうか?

交通事故により、捻挫、打撲の傷病を負っても、CRPSを発症するのは、ごく僅かな被害者です。
捻挫や打撲、極めて軽度の外傷であっても、CRPSタイプⅠ、RSDは発症しています。
外傷の程度とCRPSの症状の程度には何ら関連がありません。
CRPSになりやすい要因がある人に外傷が加わってCRPSが発症したと推測されるのですが、その要因は特定されていません。
①皮膚・爪・毛のうち、いずれかに萎縮性変化
②関節可動域制限
③アロデニアないしはピンプリック
④発汗の亢進ないしは低下
⑤浮腫
上記の要件を満たしていれば、自賠責保険は後遺障害等級を認定し、裁判でも追認されています。

さて、交通事故で、死ぬような思いをした人でも、全員がPTSDになるわけではありません。
なぜPTSDが起こるのか? 原因が、完璧に解明されたのでもありません。
しかし、外傷後のPTSDでは、臨死体験が確認されれば、因果関係が認められ、自賠責保険も後遺障害等級を認定しているのです。

CRPS、PTSDでは因果関係が認められ、線維筋痛症では、より厳しい因果関係の立証が求められるのは、間尺に合わないことです。
しかし、どうして、あなたに限ってCRPS、PTSD、線維筋痛症となったの?
この謎は、多くをサポートしている私にも、解明できていません。

3)当面の対応は?

まずは、急いで専門医を受診することです。
線維筋痛症を代表する2名の専門医を紹介していますが、
日本線維筋痛症学会 診療ネットワーク
http://jcfi.jp/network/network_map/index.html
上記から、全国の専門医を検索することができます。

専門医の受診で、線維筋痛症が確定診断されたのであれば、セロトニン系の抗うつ薬、抗痙攣薬のリリカなどの内服で、改善、治癒を目指すことになります。

梨状筋症候群1
梨状筋症候群2
梨状筋は、お尻の中央部の仙骨から、大腿骨の頚部に伸びており、股関節を外旋させ、足先を外に向ける働きをしています。
他方、坐骨神経は、骨盤から出てきた後に梨状筋の下部を通過します。

梨状筋の中を走行する坐骨神経が、交通事故外傷などで、臀部を強烈に打撲するか、股関節捻挫により、圧迫、絞扼されることにより、坐骨神経痛を起こし、臀部の疼痛、坐骨神経の走行領域の下肢に放散する疼痛やしびれをきたす疾患のことを梨状筋症候群と呼んでいます。
坐骨神経の、絞扼性神経障害です。

主たる症状は、臀部痛と座骨神経痛、間欠性跛行であり、数分の歩行で両足または、片足全体に痛み、しびれなどが出現し、歩けなくなるのですが、しばらく休息すると、再び歩行ができるのですが、これを繰り返します。

症状的には、腰椎椎間板ヘルニアによる根性坐骨神経痛と酷似しており、以下の鑑別診断が行われています。

①梨状筋郡、坐骨神経に圧痛があり、チネル徴候が陽性で放散痛を再現できること、
②臀部打撲などの外傷が認められ、坐位や特定の肢位、運動で疼痛が増強すること、
③圧痛が局所麻酔の注射で消失、または軽減すること、
④ラセーグは陰性、誘発テストであるKボンネットテストが陽性であること、
Kボンネットテスト

Kボンネットテスト

⑤神経症状は腓骨神経領域に強いこと、
⑥腰椎疾患が除外できること、

ヘルニアが、腰部の神経根を圧迫すると根性坐骨神経痛が起こるとされており、腰椎に椎間板ヘルニアが認められるときは、ヘルニアによる坐骨神経痛という診断が優先されます。

治療方法は、保存療法が中心です。
安静が指示され、非ステロイド系抗炎症剤や筋弛緩剤、ビタミンBの内服で痛みを緩和され、梨状筋ストレッチのリハビリが行われています。
これらで改善が得られないときは、神経ブロック、梨状筋ブロック療法が実施されています。

神経ブロック療法でも効果が得られないときは、脊椎の専門医による梨状筋切離術となりますが、私は、1例の経験もありません。

梨状筋症候群における後遺障害のキモ?

1)先の症状を訴えても、ほとんどの整形外科医は、座骨神経痛や腰椎椎間板ヘルニアと診断し、MRIの撮影は指示しても、その後は放置することが一般的です。

2)放置されても、自然治癒すれば問題はないのですが、重量物を扱う仕事や中腰作業で腰部に大きな負担がかかる仕事、デブでは、症状は悪化します。

3)無料相談会では、杖をついて参加される被害者もおられます。
受傷機転を確認、MRIをチェックしてヘルニア所見が認められないときは、医師ではありませんが、私が梨状筋症候群を疑います。

4)治療先に同行したチーム110は、梨状筋症候群の可能性を説明し、後遺障害診断を受けます。
とっくに、6カ月以上を経過しており、今さら、梨状筋ブロックや切離術は選択しません。
先に、後遺障害等級を申請し、その後の健康保険による治療で改善を目指します。
等級は、14級9号、12級13号の選択です。

事故直後から、先の症状を訴えていれば、
①梨状筋郡、坐骨神経に圧痛があり、チネル徴候が陽性で放散痛を再現できること、
②臀部打撲などの外傷が認められ、坐位や特定の肢位、運動で疼痛が増強すること、
③圧痛が局所麻酔の注射で消失、または軽減すること、
④ラセーグは陰性、誘発テストであるKボンネットテストが陽性であること、
⑤神経症状は腓骨神経領域に強いこと、
⑥腰椎疾患が除外できること、
上記の6つを丹念に立証していくことにより、等級は認定されています。

頭部に直接の衝撃が加わり、硬膜下・くも膜下血腫、脳挫傷、びまん性軸索損傷などの脳損傷では、通常、6時間以上の昏睡を含む意識障害が生じ、CT・MRI画像においても、脳の器質的損傷を捉えることができ、これを頭部外傷後の高次脳機能障害と呼んでいます。
この16年間、多数例を経験しており、交通事故110番が立証面で、最も得意としている分野です。
意識障害・傷病名・画像所見と高次脳機能障害認定の相関性
1であれば、高次脳機能障害の立証に、苦労はありません。
2でも、なんとか頑張って立証に漕ぎ着けます。
3となれば、高次脳機能障害の認定は極めて困難となります。
4は論外で、高次脳機能障害として審査されることはなく、非該当です。
軽度脳損傷、MTBIは4に該当し、高次脳機能障害として評価されていません。

MTBIとは、Mild Traumatic Brain Injury、つまり軽度脳外傷の略語で、外傷性のない、もしくは希薄な頭部の受傷により、脳障害を残すものとしておおむね認識されています。

症状の臨床実績は比較的新しく、90年代、湾岸戦争で爆風にさらされた帰還兵に一定の認知・記憶・情動障害を残す例があり、TBI、外傷性脳損傷の診断名がクローズアップされました。
それらには、必ずしも脳損傷、脳外傷が認められないケースも多数含まれており、M、マイルドをつけてMTBIという呼び方で一般化されました。
これはベトナム戦争の帰還兵が、PTSD、心的外傷後ストレス障害と診断され、傷病名が一般化された経緯によく似ています。

高次脳機能障害は、脳の器質的損傷の存在が前提であり、MTBIとは一線を画します。
したがって高次脳機能障害が疑われる障害を残しながら脳外傷がない為、MTBIと位置づけられる被害者が少なからず存在しているのです。
当然、自賠責や労災の基準に満たないこれらMTBI被害者に、後遺障害等級の認定はありません。
平成22年9月の東京高裁判決で障害を認める判決がでたとされましたが、判旨をみるとMTBIが障害認定されたとは読み取れません。
この判決も周囲の誤解・曲解を呼び、依然として灰色的な存在が続いています。
高次脳機能障害をサポートする我々にとって、まさに奥歯に刺さった棘のようなものです。

戦地からの帰還兵には、賠償問題もついてまわり、なにかと障害が騒がれています。
今回の高次脳機能障害委員会でもMTBIの定義と扱いについて相当のボリュームを割いています。
そこで、WHOにおけるMTBIの定義について確認してみます。

1)WHOによるMTBIの定義

WHO 共同特別専門委員会におけるMTBIの診断基準
MTBIは、物理的外力による力学的エネルギーが頭部に作用した結果起こる急性脳外傷である。
臨床診断のための運用上の基準は以下を含む
①以下の一つか、それ以上、
混乱や失見当識、30分あるいはそれ以下の意識喪失、24時間以下の外傷後健忘期間、そして、あるいは一過性の神経学的異常、たとえば局所神経徴候、けいれん、手術を要しない頭蓋内病変、
②外傷後30分の時点、あるいはそれ以上経過しているときは、急患室到着の時点で、グラスゴー昏睡尺度得点は13~15
脳しんとうとMTBI

ちょっとした脳震盪でも、MTBIを発症する?

上記のMTBI所見は、薬物・酒・内服薬、他の外傷とか他の外傷治療、例えば、全身の系統的外傷、顔面外傷、挿管など、他の問題、例えば心理的外傷、言語の障壁、併存する医学的問題、あるいは穿通性脳外傷などによって起きたものであってはならない。

2)平成23年新認定システム ~ 委員会における専門医の意見

続いてMTBIについて、今委員会における専門医の意見を検証します。

片山医師の意見陳述
片山医師は脳神経外科学が専門であり、当委員会の検討対象となっている1回限りの軽症頭部外傷により遷延する重篤な症状あるいは障害が発生することがあるかという点について説明を行った。

課題1
1回だけのMTBIにより、遷延、3カ月以上する重篤、社会生活が困難な症状あるいは障害が発生することがあるのか?
受傷直後から数日ないし数週間までは、頭痛やめまいなどの愁訴や、記憶障害および注意障害、不安および抑うつなどの症状が持続することがある。
これらの症状は、受傷後しばらく脳の機能的障害および器質的障害の影響を受けるために起きると考えられる。
しかし、これらの症状は徐々に軽快し、一般的には3カ月以内に消失する。
ほとんどが受傷後3~12カ月以内に回復する。
ただし、一部の患者ではこれらの症状が遷延したり遅発したりすることがある。

コメント

原因について、「器質的損壊」 には言及しないものの、「器質的障害」 の影響としているところに注目しなければなりません。
しかし、症状は一部の例外を除いて3~12カ月以内に回復する、としているのです。
あくまで一過性の症状であると捉えています。
では長く症状が続く場合、その原因は?

課題2
現実に症状の遷延や遅発の事例は、脳損傷に起因するものといえるか?
遷延ないし遅発する症状の原因を、脳の器質的障害=脳損傷に求めることはできない。
遷延ないし遅発する症状には、脳損傷とは関係のない要因が絡んでいると考えられている。
これには、身体的には疼痛など、精神的には外傷後ストレスや不安ないし抑うつ、人格的には行動性向など、社会的には家族や職場などでのストレス、訴訟や補償などの要因が含まれている。

しかし、軽症頭部外傷による脳の機能的障害ないし器質的障害(脳損傷)による症状が消失する前に、これらの要因が絡むことによって、症状が遷延したり遅発したりしたときには、軽症頭部外傷を原因とする症状と見倣すべきであるという考え方もある。

コメント

脳損傷であることをきっぱり否定しています。
他の痛みから派生する、精神的なもの、その人の性格や被害者意識が原因であると分析しています。
また、心因性の障害であるとしても、長引くその症状のきっかけとなったとの見方もあります。
これは解釈論であって白黒つく話ではありません。
いずれにしても、脳損傷のない脳障害はない! ハッキリ断定しています。

課題3
特に、受傷による意識障害がなく、形態画像でも脳損傷を検出できないようなときはどうか?
意識障害や記憶障害などを起こしていなければ、器質的脳損傷を起こすことはないと考えられる。
このようなとき、遷延ないし遅発する症状の原因を、脳の器質的脳損傷に求めることはできない。

コメント

意識障害がなく、健忘(記憶障害)もなければ、脳損傷が存在する筈がない。
したがって、症状の継続の原因は脳損傷ではない。
この見解は、全くぶれていません。
現状の高次脳機能障害の認定基準とは一線を画すものということになります。

脳損傷の有無によって高次脳機能障害とMTBIは明確な区別がされています。
この認識は変わっていません。
そして「一過性であること」、「回復するもの」、「精神的なもの」 と断定しているのです。

3)平成23年9月の高裁判決

今委員会でも無視することはできず、以下のようにまとめられています。

D委員、E委員による意見発表
明確な意識障害や画像所見がなく、後遺障害9級、ただし30%の素因減額を適用を認定した裁判例、東京高裁平成22年9月9日判決、H22年(ネ)第1818号、同第2408号にづいて、報告がなされた。
①本件事案について、一審の東京地裁は事故で脳外傷が生じたことを否定して後遺障害14級を認定したが、東京高裁はこれを認め、後遺障害9級を認定した上で、損害賠償額の算定において、「心的要因の寄与」 を理由として30%の素因減額を行っている。

コメント

つまり、東京高裁判決では、画像上明らかではないが、なんらかの脳外傷があったのだろうと推論をもって障害の存在を認めています。
しかし、この認め方も灰色で、心因性の影響も捨てきれず、損害額の70%だけを認めたのです。
これを、支援団体は、MTBIの障害認定に風穴が空いたと歓喜していますが、私は、原因不明ではあるが、現状の障害の重篤度を考慮した結果であって、MTBI自体の障害認定はしていないと、受け止めています。

②東京高裁は因果関係の判断にあたり、最高裁昭和50年10月24日判決、ルンバール事件判決を引用しています。同最高裁判決は、因果関係を判断する上で、自然科学的な証明まで求めなくて良いことを述べたものである。

東京高裁が因果関係の判断に関する最高裁判決を引用した上で判断した点と、損害額の算定において、「心的要因の寄与」 を理由とする素因減額、最高裁昭和63年4月21日判決参照を行っている点とを考え合わせれば、東京高裁は、脳に器質的損傷が発生したか否かという点、被害者の訴える症状の全てが脳の器質的損傷によるものか否かという点の双方について、悩みながら判断したという印象を受ける。

コメント

自然科学的な証明を画像所見と置き換えるなら、これは画期的な判断です。
しかし引用した最高裁判例は35年前のルンバール事件で、これは医療過誤、医療事故における医師の治療行為の正当性が争われたものです。
ここからの引用は苦し紛れ、強引さを否めないと考えられるのです。
医学的な判断をする=裁判官の苦悩は毎度のことで、医師が理解できないものを悩みながら、判断しているのです。

③東京高裁は、事故直後に強い意識障害がなくても、脳外傷は生じうるとした。
この点について加害者側は、事故後にきちんと事故状況の説明をしているし、ましてや自分で車を運転して帰っているのだから、意識障害はないだろう”と主張したが、高裁は、だからといって脳外傷が生じていないとは言えないと判断している。
しかしながら、脳外傷の有無に関する東京高裁判決の論理展開は、「提出された診断・検査結果の内容と被害者側医師意見書を考えると器質性の脳幹損傷が起こった。」 というのみであり、他方、加害者側から出てきた意見書については単純に、「採用できない。」 と否定するだけであって、脳外傷の判断における医学的意見の採否の理由は十分に説明されておらず、また、被害者に発生した神経症状や所見、被害者側が主張するものについても、どう評価すべきかの検討が十分ではないと思われる。

コメント

本判旨では、意識障害なしの証拠不十分でも実際の症状、治療経過、医師の診断によって脳損傷が推定できるとし、「事故直後、症状がなかった。」 から脳障害はないと主張する被告の反論を採用しなかったにとどめています。
したがって、MTBIの障害性には、なんらの結論も出していません。
原告は上告すると聞いています。
最高裁で決着がつくのか? 再逆転判決、やはり障害はないとなるのか? 注目しているところです。

4)MTBIのまとめ

脳外傷の画像所見がなくても、脳損傷はあり得るのか?
意識障害がなくても、脳損傷はあり得るのか?

これら2つの問題は、今もなお、明解な結論が出ていません。
現状では、画像所見・意識障害がなければ、原則、脳損傷はないと診断されています。
先の高裁判決も、極めて限定的に、被害者救済の見地から判示したもので、今後、同様の裁判が積み上げられるとしても、認定されることが増加するとは考えられません。
これまでも、MTBIと診断された複数の被害者が、無料相談会に参加されているのですが、中でも、強烈な印象を受けた2例を簡単に紹介しておきます。

最初は、道路を横断しようとしたとき、前を通り過ぎるタクシーと大腿部がかするように接触し、よろけて転倒、それに気づかないタクシーを怒鳴りながら、走って追いかけ、停車させたとのことです。
このような事故発生状況ですが、数日を経過すると、めまい、頭痛、内臓疾患などの不定愁訴が出現し、特定の医師の診察を受け、MTBIと診断されています。

もう1つは、信号待ち停止中に追突にあった被害者で、事故受傷から2年を経過して、やはり特定の医師からMTBIと診断されています。
医師の指示で受けた拡散テンソル画像で、脳の器質的損傷を立証できたとのことで、鼻息も荒かったのですが、私に言わせれば、その器質的損傷が本件事故に起因したものか、この肝心なポイントは立証できていないのです。

交通事故110番では、いわゆる高次脳機能障害で苦しんでおられる被害者のサポートで手一杯であり、MTBIの対応には、消極的です。

5)最後に、現在、MTBIを支援している弁護士の意見

①軽度脳外傷の軽度とは、あくまで事故後の意識障害レベルが軽度であったという意味に止まり、症状それ自体が軽度であるという意味ではなく、症状が慢性化したときは、むしろ重度の後遺障害を残存することが多いことに注意すべきである。

②自賠責保険は、脳損傷の診断基準として、国際基準に比べて異常に突出した高いハードルの診断基準を設定し、裁判所も自賠責保険の判断を追認する傾向が顕著である。
日本の医療従事者の大半は2004年WHOの軽度外傷性脳損傷の診断基準に精通していない。
そのため、脳損傷であるのに、そうでないと否定して、被害者に泣き寝入りを強いている現実がある。

CSFH は、 Cerebro Spinal Fluid Hypovolemia の略語です。

CSFH は、 Cerebro Spinal Fluid Hypovolemia の略語です。

CSFH の診断基準

日本神経外傷学会に参加する脳神経外科医が中心となって、頭部外傷に伴う低髄液圧症候群の診断基準をまとめています。
この作業部会委員には、以下の医師が参加されています。

有賀徹 委員長=日本救急医学会理事 昭和大学病院副院長
阿部俊昭=慈恵医科大学病院 脳神経外科教授
小川武希=慈恵医科大学病院 救急部診療部長
小沼武英=仙台市立病院副院長、脳神経外科部長
片山容一=日本大学付属板橋病院 脳神経外科部長
榊寿右=奈良県立医科大学教授
島克司=防衛医科大学教授
平川公義=東京医科歯科大学教授

1)診断基準のうち、前提となる基準は、

①起立性頭痛

国際頭痛分類の特発性低髄液性頭痛を手本として、起立性頭痛とは、頭部全体に及ぶ鈍い頭痛で、坐位または立位をとると 15 分以内に増悪する頭痛と説明されています。

②体位による症状の変化

国際頭痛分類の頭痛以外の症状としては、項部硬直、耳鳴り、聴力の低下、光過敏、悪心、これらの5つの症状です。

次に大基準として、

①MRIアンギオで、びまん性の硬膜肥厚が増強すること

この診断基準は、荏原病院放射線科の井田正博医師が、「低髄液圧の MRI 診断の標準化小委員会」 ここで提示されている基準に従います。

②腰椎穿刺で低髄液圧が 60mmH2O 以下であることが証明されること

③髄液漏出を示す画像所見が得られていること

この画像所見とは、脊髄MRI、CT脊髄造影、RI脳槽造影のいずれかにより、髄液漏出部位が特定されたものをいいます。
前提となる基準 1 項目+大基準 1 項目で、低髄液圧症候群= CSFH と診断されます。

CSFH は、大きなくしゃみや尻餅をついても発症すると言われており、これが外傷性であると診断するための基準としては、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的とされています。

上記をまとめると、

①起立性頭痛または、体位によって症状の変化があり、

②MRIアンギオで、びまん性硬膜肥厚が増強するか、腰椎穿刺で低髄液圧60mmH2O以下であることもしくは髄液漏出を示す画像所見が得られていること、

③そして、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的なもの、

上記の3条件を満たしたものに限り、外傷性CSFHと診断されることになりました。

裁判所の判決動向

H18-9-25、横浜地裁~H19-11-27、東京地裁、この間に 9 件の訴訟が提起されていますが、いずれも、CSFH は否定されています。
先の診断基準が公表されたのは、H19-2-20ですが、それ以降の4件は、この診断基準をベースにして認定が退けられています。

特筆すべきは、
RI 脳槽造影による漏出は、脊椎腔穿刺の際にできた針穴から漏出している可能性が高い?
RI 脳槽シンチの所見は個人差が大きく、診断基準とするに批判的な見解が多い?
つまり、RI 脳槽造影に批判的な判決が目立っています。

私のこれまでの経験則でも、脳槽シンチ後に症状が悪化した被害者が30名以上おられます。
そして、100 例を超える経験則で、上記の診断基準を満たすものは、1例もありません。

脳脊髄液減少症=CSFH、東京高裁の判決

先に横浜地裁が、H20-1-10にCSFHを認める判決を下していますが、H20-7-31、東京高裁は、控訴棄却を決定、1 審判決を支持しています。

H16-2-22、布団販売業の42 歳男子が乗用車を運転、交差点を直進中、対向右折車の衝突を受けたもので、事故受傷から14カ月後にCSFHの確定診断がなされています。
①本件事故により、頭部挫傷の診断を受けていること、
②初診の治療先でも頭痛を訴え、カルテには、眼の奥が痛いとの記載があること、
③経過の治療先のカルテにも、右眼の裏が痛いとの記載があること、
④頭痛に程度の差は認められるが、右眼の奥ないし裏が痛むという点で一貫性を有している、
⑤頭痛についても、身体を横にして休んでいると和らぐというもので、起立性頭痛の症状と符合、
⑥何より、EBPの治療で完治していること、

上記の理由により、 CSFH が本件事故による衝撃ないし外傷に起因するものであると推認することができると判断、本件事故との因果関係を認めました。
さて、この判決、CSFH と交通事故受傷の因果関係を認めた画期的なものなのか?
私は、保険屋さんの主張があまりに短絡で、結果として、転けたに過ぎないと評価しています。

頭部外傷に伴う CSFH の診断基準では、
①起立性頭痛または体位によって症状の変化があり、
②造影 MRI でびまん性硬膜肥厚が増強するか、腰椎穿刺で低髄液圧60mmH2O 以下であること、もしくは髄液漏出を示す画像所見が得られていること、
③そして、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的なもの、
上記3つの条件を満たしたものに限り、外傷性CSFH と診断されており、本件も、この 3 条件を満たしています。

本件は、当初、保険屋さん側から債務不存在確認請求訴訟が提起されています。
被害者側の反訴により、損害賠償反訴請求事件となったものです。
さらに、保険屋さんは、当初、CSFHと本件事故の因果関係を認めているのです。
後に、錯誤によるものとして撤回していますが、横浜地裁は、時機に遅れた主張で、禁反言の原則からも許されないと、厳しく指摘しています。

ともあれ、CSFHは先の3つの診断基準を満たせば、事故との因果関係が認められる傾向です。
しかし、現実の相談では、3つの条件を満たすケースは、極めて少数例です。
むしろ、頚部交感神経の暴走による、バレ・リュー症候群の重症例が大半と思われるのです。

①何でもかんでも CSFH と鼓舞するグループ、
②これに乗せられたマスコミ、
③そして、これをお金儲けに利用している治療機関、

大方の責任は、上記の三者にあります。

低髄液圧症候群=CSFHは、健保で治療が認められている傷病名です。
NHKのクローズアップ現代でさえ、被害者が30万円を窓口で支払う場面を放映していました。
どうして、もう少し深く突っ込めないのか? この点が情けなく、残念でなりません。

脳脊髄液減少症、CSFHにおける後遺障害のキモ?

1)被害者からの電話やメール相談に対しては、3条件を満たしているかをチェックします。
満たしていると思われるときは、各地で実施している交通事故無料相談会で面談します。

診断書、診療報酬明細書などを検証し、3条件を満たしていることが確認できたときは、後遺障害の立証について、チーム110がサポートを開始します。
後遺障害診断書を回収、自賠責保険に対して被害者請求で申請します。

2)それでも、現時点では、厚生労働省が事故との因果関係を認めておらず、爺さん会は、それを理由として非該当の結果を通知してくると予想しています。

非該当では、直ちに、自賠・共済紛争処理機構に対して紛争処理の申立を行います。
つまり、被害者請求の時点で、紛争処理の申立書の作成も完成させておくのです。
自賠・共済紛争処理機構と言っても、爺さん会の屋上に屋根をかけた組織で、常識的には保険屋さん寄りです。余程のことが起きない限り、非該当の結論は変わりません。
ここまでは、訴訟に至る儀式のようなものです。

3)この段階で、交通事故に長けた弁護士に委任、本件の損害賠償請求訴訟を立ち上げます。
3条件を満たしている被害者は、ご相談ください。