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交通事故受傷で傷害を負った被害者が、その後遺障害により労働能力の一部を喪失し、その後、別の原因によって死亡したときに、後遺障害による損害はどのように算出すべきか?
これを判示した最高裁判例を紹介します。

学説は、切断説と継続説の2つに分かれています。
切断説とは、死亡により、後遺障害の逸失利益等、被害者の損害が発生しておらず、この部分について、加害者は免責されるとするもので、継続説は、死亡の事実を考慮することなく死亡時以降の就労可能期間の逸失利益を算定すべきとの考え方です。

(1)最高裁 平成8年4月25日 第一小法廷判決
(平成5年(オ)第527号損害賠償請求事件 民集50巻1221ページ)

S63-1-10、工務店に勤務する大工さんが同僚の運転する普通貨物自動車に同乗中、センターラインを越えて反対車線に進入した大型貨物自動車の衝突を受け、脳挫傷、頭蓋骨骨折、肋骨骨折、左下腿骨開放性骨折の傷害を被っています。
平成元年6月28日に症状固定、高次脳機能障害による知能の低下、左腓骨神経麻痺、複視等の後遺障害を残し、併合6級の認定を受けています。
この大工さんですが、症状固定後も大工として就労復帰ができる状態ではなく、リハビリをかねて、自宅付近の海で貝を採るなどしていたが、平成元年7月4日、海中で貝を採集している際に、心臓麻痺を起こして死亡しています。

判旨
交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、いわゆる逸失利益の算定にあたっては、その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上、考慮すべきものではないと解するのが相当である。

けだし、労働能力の一部喪失による損害は、交通事故のときに一定の内容のものとして発生しているのであるから、交通事故の後に生じた事由によってその内容に消長をきたすものではなく、その逸失利益の額は、交通事故当時における被害者の年齢、職業、健康状態等の個別要素と平均稼働年数、平均余命等に関する統計資料から導かれる就労可能期間に基づいて算定すべきものであって、交通事故の後に被害者が死亡したことは、前記の特段の事情のない限り、就労可能期間の認定にあたって考慮すべきものとは言えないからである。

また、交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務を負担する者が、その義務の全部または一部を免れ、他方、被害者ないしその遺族が事故により生じた損害の填補を受けることができなくなるというのでは、衡平の理念に反することになる。

これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、大工職である被害波は本件交通事故に帰院する本件後遺障害により労働能力の一部を喪失し、これによる損害を生じていたところ、本件死亡事故による被害者の死亡について前記の特段の事情があるとは認められないから、就労可能年齢67歳までの就労可能期間の全部について逸失利益を算定すべきである。

(2)最高裁判例 平成8年5月31日

H2-4-15、高校3年生の被害者は自動二輪車を運転、制限速度の2倍を超える速度で走行中、ガソリンスタンドで給油を終えた普通貨物自動車が被害者側車線に進入、被害者は衝突を避ける溜めに急制動を余儀なくされ転倒、傷害を負った。
その後、被害者は、H3-12-11、別の交通事故によって死亡している。

判旨
交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、いわゆる逸失利益の算定にあたっては、その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上、考慮すべきものではないと解するのが相当である。

右のように解すべきことは、被害者の死亡が病気、事故、自殺、天災等のいかなる事由に基づくものか、死亡につき不法行為等に基づく責任を負担すべき第三者が存在するかどうか、交通事故と死亡との間に相当因果関係ないし条件関係が存在するかどうかといった事情によって異なるものではない。
本件のように被害者が第二の交通事故によって死亡した場合、、それが第三者の不法行為によるものであっても、右第三者の負担すべき賠償額は最初の交通事故に基づく後遺障害により低下した被害者の労働能力を前提として算定すべきものであるから、前記のように解することによって初めて、被害者ないしその遺族が、前後2つの交通事故により被害者の被った全損害についての賠償を受けることが可能となるのである。

また、死亡後の生活費の控除について、
交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害のために労働能力の一部を喪失した後に死亡した場合、労働能力の一部喪失による財産上の損害の額の算定に当たっては、交通事故と被害者の死亡との間に相当因果関係があって死亡による損害の賠償をも請求できる場合に限り、死亡後の生活費の控除をすることができると解するのが相当である。

けだし、交通事故と死亡との間の相当因果関係が認められない場合には、被害者が死亡により生活費の支出をしなくなったことは、損害の原因と同一原因により生じたものということができず、両者は損益相殺の法理またはその類推適用により控除すべき損失と利得の関係にないからである。

上記の2つの最高裁判決は、

①被害者が不法行為後に別の原因で死亡したときの後遺障害損害の算定が、不法行為の当時にその死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事由のない限り、死亡の事実を考慮せずに、就労可能期間に基づいて行われる。
つまり、継続説採用の立場を明らかにしています。

しかも、この立場は、事故後に発生した事情が、偶発的事故、第三者の不法行為、被害者の自殺や病気、天災等の原因の如何を問わず、また、当該の不法行為と事故後の事情との間の相当因果関係ないし因果関係の存在によっても結論を異にしないとしています。

②後遺障害による逸失利益の算定に当たっては、当該不法行為と被害者の死亡との間に相当因果関係がない限り、死亡後の生活費の控除はできないとの見解を明らかにしており、今後の実務に与える影響は極めて大きいと考えられます。

最近、治療中に死亡した夫の奥様からのメール相談に対して、
「事故後の私病で死亡しても、後遺障害部分の損害は、自賠責保険、そして裁判所でも認められていますから請求をされては如何ですか?」 と回答しました。

「相談中の弁護士よりは、死んでしまえば、なにもかも終わりと言われているのですが、どちらが本当ですか?」 続けての質問です。

「私に相談しておいて、ポンスケ弁護士を信用されるのであれば、諦めればいいだけのことですよ。」 イライラして、プッツン回答をしました。
現在、連携する弁護士を紹介、損害賠償請求を始めています。

通常の世間の常識は、「死んでしまったら、なにもかも終わり?」 です。
弁護士ですら、一部は先のレベルですから、医師に至っては、全員がこのように判断しています。

交通事故を専門とする限り、シッカリと対応しなければなりません。