Q 通勤災害の補償について?

通勤途上に事故受傷し、過失割合は15:85と言われています。
右手関節の複雑骨折で、2回の手術を受けました。
労災の通勤災害の適用です。
労災の休業補償、日当の60%も振り込まれています。
相手の保険屋さんからは、慰謝料の前払いとして、2回の手術で30万円が振り込まれました。
示談の段階となり、相手の保険屋さんは、労災保険に対して治療費を支払ったとして、最終的な示談金の提示額は、ほんの数万円です。

私の疑問ですが、社会保険とか雇用保険は私と会社が保険料を負担しています。
それなのに、相手の保険屋さんが、私の治療費を労災保険に支払ったりするのですか?

また休業補償の残り40%は、請求できないのでしょうか?
相手の車の修理代は、新車が買えるほどの高額でした。
私のバイクは廃車となりましたが、ネットオークションで価格を算出、上記と相殺した結果、2万円の支払いとなりました。
私の任意保険ですが、次回の保険料がアップするので、適用していません。
私は弁護士特約に入っているので、今からでも相談すべきでしょうか?
ボッタクルつもりはありません。
しかし、実質年収は休業補償を加えても、90万円低下しています。
右手首には、リストカットしたような醜状痕が残り、痛みがあります。

あなたが、相手の保険屋さんに請求できるのは、
傷害部分では、休業損害+賞与減額+通院交通費+入通院期間に対応する慰謝料です。
さらに、後遺障害が認定されたときは、後遺障害慰謝料と逸失利益となります。

慰謝料

そして、保険屋さんが負担するのは、あなたの請求額の85%です。
もちろん、労災から支給された休業補償は、既払金として差し引かれます。

右手関節の複雑骨折であれば、常識的に考えて、数万円ではありません。
労災保険からの休業補償は、休業給付金+休業特別支給金の2本立てです。
休業給付金は60%、休業特別支給金は20%、合計は80%となります。
あなたは、保険屋さんに対しては、40%を請求することができます。
もちろん、保険屋さんが認定するのは、その85%となります。

本件事故は、加害者、つまり第三者の85%の過失で発生しています。
この場合、労災保険は支払った治療費、休業給付金については、加害者に求償請求します。
本件では、加害者ではなく、加害者の加入する保険屋さんに対してです。
加害者の一方的な過失で事故が発生した以上、これは当然のことです。
しかし、そのことを理由に、あなたの支払いがカットされることはありません。
あなたの理解が間違っていると予想しています。

弁護士費用特約に加入であれば、本件の解決を弁護士に委任すべきです。

後遺障害は、説明が乏しく、踏み込めません。

醜状痕は、あなたの手のひら大以上の面積があれば、14級4号が認定されます。
手のひら大とは、指の部分を除いた面積のことです。

右手関節

右手関節に痛みがあるとのことですが、骨折後の右手関節に変形が認められるときは、痛みを後遺障害としてとらえて、14級9号あるいは12級13号が認定されることがあります。
この辺りをチェックしてください。

通勤途上もしくは業務中の交通事故受傷は、頻繁に発生しています。
労災保険適用のメリット、弁護士として知っておくべきことを説明しておきます。

(1) 治療費の全額が、労災保険の負担となります。

健康保険のように、被害者の一部負担はありません。
過失事案では、治療費の過失相殺は労働基準監督署の請求に対して行われますから、被害者は治療費部分での過失をかぶることはありません。

治療費を含めて労災適用とするのは、入院事案、過失事案に限られます。
したがって、通院事案で、被害者に大きな過失がないときは、自由診療で治療を続けます。

交通事故であれば、治療先は自由診療に期待しています。
1点単価は健保で10円、労災で12円、自由診療で20円です。
この20円の期待を裏切ると、後遺障害等で様々な嫌がらせが仕掛けられることになります。
理屈ではなく、治療先と被害者の軋轢を回避する必要から、自由診療を続けてください。

通勤災害、相手が無保険となると、被害者が加入の人身傷害保険に請求することになります。
人身傷害保険では、約款に、「公的制度を利用して治療費の節減に努めること?」 の記載があり、治療費に、健保or労災保険を適用しないと人身傷害保険に請求させないとの運用がなされています。
しかし、約款には、努力目標が示されているだけです。
通院事案、そして被害者に大きな過失がないときは、必ず自由診療を指示してください。

この場合の労災保険ですが、症状固定後に、休業特別支給金と後遺障害の請求を行います。

(2) 休業期間中の休業給付金は、休業4日目から支給されます。

休業4日目から支給されます。

計算式は、事故前3ヵ月間の総支給額÷3ヵ月間の総日数×60%×休業日数です。

自賠や任意保険では、1ヵ月は30日となり、90日で割っていましたが、労災では暦日通りの計算です。そして、有給休暇の買い上げはなされません。
この点が、保険屋さんとの相違点です。

(3)先の休業給付に加えて、休業特別支給金が支給されます。

計算式は、事故前3ヵ月間の総支給額÷3ヵ月間の総日数×20%×休業日数となります

休業特別支給金

厚生労働省は傘下に労働者健康福祉機構を擁し、結婚式場やホテルを全国で運営しています。
この利益の中から支給されるものが、特別支給金で、労災保険制度上の恩典です。
保険屋さんから100%の休業損害の支払いがなされていても、請求を行えば、給与の20%が支給されますから、この場合は、120%を取得できることになります。

(4) 保険屋さんと労災に後遺障害が請求できる。

保険屋さんは、自賠責保険を通じて、Nliro調査事務所が後遺障害を認定しています。
労災保険は、それには関係なく、独自に認定しています。

Nliro調査事務所が、後遺障害診断書と画像だけを参考に審査、認定するのに対して、労災保険では、顧問医が被害者を直接、診断して等級を認定しています。
おのずと精度は、労災保険に軍配が上がります。
同じ認定基準を使用しているのですが、常に労災保険の方が等級は高いのです。

常に労災保険の方が等級は高いのです。

労災保険は補償保険ですから、被害者に対する慰謝料の支給はありません。
労災保険は、後遺障害の支給では、自賠責保険との調整を行います。
ムチウチで14級9号が認定されると、自賠責保険は75万円を被害者に振り込みます。
75万円の内訳は、後遺障害慰謝料32万円、逸失利益が43万円です。

労災保険でも14級が認定されると、障害一時金としては、給付基礎日額の56日分が支払われることになります。
給付基礎日額とは、
(事故前3ヵ月間の総支給額÷事故前3ヵ月間の総日数) の計算式で求めます。

仮に、給付基礎日額が1万円のときは、1万円×56日分=56万円が支払の対象ですが、自賠から取得している逸失利益43万円は差し引かれます。
56万円-43万円=13万円が支払われることになり、これを支給調整と呼んでいます。

これ以外に、障害特別支給金として8万円、ボーナス特別支給金が56日分支払われています。
ボーナス特別支給金とは、
(過去1年間に支払われたボーナスの支給額÷365日) の計算式で日額を求めます。
両方を総取りすることはできませんが、両方から支給される事実に変わりはありません。

(5)労災保険では、後遺障害等級が7級以上であれば、一時金ではなく、障害年金で支給します。

療養生活が1年6ヵ月以上

労災保険は、任意保険ではなく、自賠責保険との調整です。
労災保険の年金と、自賠責保険の一時金が競合したときは、年金の支払いを3年間、停止するとのルールがありますが、療養生活が1年6ヵ月以上であれば、支給停止はありません。

(6) 将来の再発にも対応がなされます。

再発申請

例えば、股関節の後方脱臼骨折後、変形性股関節症に発展、事故受傷から5年を経過した段階で大腿骨頭壊死となり、大腿骨頭置換術が実施されることになったときは、一般的にはその手術を受けた後に、再度、後遺障害診断を受け、自賠責保険に被害者請求を行います。
以前の認定等級が12級で、術後の等級が10級になったときは、この差額が振り込まれます。
しかし、入院、手術の治療費や、休業に伴う休業損害は、被害者の自己負担となります。

労災保険では、主治医から再発申請が提出されたときは、この時点から労災保険の適用がなされ、治療費も休業給付金も労災が支払ってくれるのです。

(7) 症状固定後の治療費も負担してくれます。

アフターケア制度

脊髄損傷、頭頚部外傷症候群、尿道狭窄、慢性肝炎、大腿骨頚部骨折および股関節脱臼・脱臼骨折、人工関節・人工骨頭置換、慢性化膿性骨髄炎、外傷による末梢神経損傷、熱傷、精神障害については、アフターケア制度が設けられています。

この制度を利用すれば、症状固定後の治療費も労災保険が負担してくれます。
症状固定後の治療費が保険屋さんから負担されることは、一部の例外を除いてはありません。
(6) と(7)は、とりわけ大きなメリットになります。